NTTデータ社 ~SDGsと社会課題に触れる2日間~ 前編
6月中旬、NTTデータ社の依頼で、2030SDGsゲーム体験から始まる2日間のワークショップを実施しました。NTTデータ社に掲載許可をいただいて、当日の内容をレポートします。
「社会課題について知りたい。実際に起きていることを体験として理解した上で、自分たちに何ができるのか? を考えたい」というご要望をいただいての、宿泊型の研修。
ご要望を受けて、2つのポイントで設計しました。
- 社会課題を知識や情報として背景まで理解する
- 見る・聴く・触れるなど五感を通じて、実感として体験する
社会課題は、様々な要因が複雑に絡み合って起きています。
正しい、シンプルな解決方法は存在しません。
もしそんな解決方法が存在するならば、すでに誰かによって解決・改善されているでしょう。
社会課題が問題となり続けている理由の多くは、その複雑さにあります。
複雑だからこそ、起きていることを本質的に理解するためには、知識と体感の両面から理解することが欠かせない、と私たちは考えています。
具体的には、2日間を以下の構成で実施しました。
- ゲーム体験を通じてSDGsを理解する
- 実践者から学ぶ
- 社会課題の背景を理解する。現場に触れ、実践している人の声を聴く
■1. ゲーム体験を通じてSDGsを理解する
初日は、2030SDGsのゲーム体験からスタート。
参加者のみなさんの日々の生活や仕事・ビジネスと、今、世界で起きていることとのつながりについて、ゲームの中での体験と紐づけて振り返ります。
そしてショートレクチャーも交えながら、SDGsがなぜ今私たちの世界に必要なのか、といったSDGsの本質的な部分を体感的に理解していきます。
また、「企業に何が求められるようになってきているのか?どんな変化が起きているのか?」といった企業に対する影響の大きさと変化のスピード感を共有しました。
個人としても、企業としても、これまでとは優先順位や常識が大きく変わろうとしている。この感覚をはじめに共有することで、この後に受け取れるものの質が高まります。
■2. 実践者から学ぶ
その後は、実践者として山藤旅聞さんをお招きして、お話をうかがいました。
山藤さんは、SDGs以前から「持続可能な世界」を「教育というアプローチで」実現していこうと行動し続けている実践者です。
教員として高校に勤務されながら、企業や自治体を巻き込み、サステナビリティという切り口で生徒とのコラボレーションプロジェクトを数十個も同時並行で走らせています。
「たとえば生徒たちと行ったプロジェクトのひとつをご紹介すると、オーガニックコットンを扱う企業から、廃棄される切れ端、や売れ残りをなにかに使えないか、と相談がありました。生徒の一人が、ナプキンがないことでアフリカの女の子は生理がくると学校にいけないと聞いた、と教えてくれて。じゃあ切れ端や売れ残りを使ったナプキンを作って、アフリカに送ろう、となったんです。
みんなで作って送って、すごく喜ばれて感謝された。生徒たちも嬉しい。もっとやりたい、となりますよね。こういうのが本当の教育だと思っています」
「他には、ある県とご一緒しているプロジェクトで、定置網漁で市場に並ばない魚がキロ 数十円から数百 円で売られている。でも、おいしいんですよ、規格外なだけで。とてもおいしい。それを見た高校生が、なんで売れないんだろう、おいしさを知ってもらおう、と東京で高校生レストランを企画したり。現場に行って、実際に見てわかる、わかると関心や疑問が出てくる、ということが大きいです」
高校生たちが自身の関心からプロジェクトベースで関わり、企業や自治体と共に社会で起きていることに対して様々なトライをして、その体験から学び、そして実際に変化を起こしてもいます。
そのクリエイティビティや行動力はとても刺激的です。
「今の高校生は、インターネットがあたり前、SNSがあたり前、世界とつながっている感覚を自然に持っています。情報も無料があたり前、便利があたり前。でもより便利になることよりも、地球上に困っている人がいることに関心があって、なぜこれ以上便利さを求めるのだろう……そんな感覚を持った子が多いと感じています。
彼らは、すでにソーシャルデザインのセンスを持っている。彼らになんとか、実践できる現場をつくれないかと考える中で SDGs に出会った。他の教科の先生、他の学校の先生と一緒にやりましょう、というところから始まって、企業や自治体の方から相談をいただくようにもなっています」
このレポートの文字という限られた媒体だけではとても伝えきれないのですが、山藤さんのお話や、お話しされる姿からは、「自分も何かしたい! 何ができるだろう?」と心が動かされるような熱量があります。
お話の後のみなさんからの質問は山藤さんがお帰りになる時間になっても止まらず、打ち切らざるを得ないほどの熱気でした。
ご質問のひとつに、どうやってそんな相談をもらうようになったのか、コラボレーションする関係や状況をつくることができるようになったのか、というものがありました。
「最初からコラボレーションの相談がきたわけではありません。企画書を持ってたくさんの企業に協力してください、と訪問しては断られました。訪問し続けていく中で、持続可能な社会に向けての活動理念が合致することで協働してくれる企業も出てきて、そこでプロジェクトの事例ができて、そこから次につながり、声をかけていただくようになって。
今は協力してほしい、という声をかけていただくことの方が多い。生徒がどんな目的ですか、と相手に聞くようになっています」
最初はとにかくたくさん動いてみる。そこからひとつ、ふたつとつながり、行動事例が出てくると大きくなっていく。
社会課題の解決は未だ、誰も答えを持っていませんし、解決のための方法も知りません。なので、行動しながら考えるのは当たり前で、プロトタイピングする、行動することの重要性を、山藤さんのお話からも改めて感じました。
「僕の教育理念は、Design for All。
Design for Allの概念を提唱したロナルド・メイスは、4 つのことを挙げている。
- 今地球で生きている80 億人すべてのひとのためのDesign
- これから地球に生まれてくる命のためのDesign
- 地球や環境を今につないでくれた先祖に失礼のないDesign
- 動物や植物、地球すべての命のためのDesign
この 4 つの軸を常に考えながら、教育を伝えていくようにしています」
「これからの時代のデザインは、本当に困っている人のために使っていくものだと。たとえば浄化ストローというすごいプロダクトがあります。泥水でもこのストローを使うときれいな水として飲める、という製品。水が飲めるようになり、アフリカの女性が水くみという労働や、病気から解放されて、学校に行けなくなる問題を解決することができた。
こういう技術を考え実現していくことこそ、これから本当に僕たちが学び、思考していくこと」
山藤さんがお帰りになった後、それぞれが感じたことを内省し言語化しました。
インパクトが強かった分、ポジティブ・ネガティブという軸ではなく、自分自身の内側に起きていることをしっかり感じ、言語化することでその体験を深めました。
そして実際の行動を考える上で可能性となる自分たちのリソースを書き出し、全体で共有して、初日が終了しました。
後日、みなさんからいただいた初日の感想からも、この時の熱量の高さが伝わってきます。
いくつかご紹介します。
- とても熱くなる時間でした!自分も小さな事から始めます
- 山藤さんの講演がすごくパワフルで刺激を受けました。と同時に自身とのギャップを痛感しました
- こんなにもパワフルな高校生がいることに正直驚きました。大人の目から見えないこと、大人の頭では思い浮かばないことが高校生には秘められているのだと驚きました
- 自分の持っているものと、自分のしたいことを実現しようとすること、のお手本のように感じました
2日目は「社会課題の実際、起きていることを体験として知り理解する」ことを目的にNPO法人Leaning for All(以降、LFAと表記)の石神さん、スタッフのみなさんに全面的にご協力をいただきました。学習支援の現場を見学し、支援活動を行う中で感じている声を聴きます。
が、長くなりましたので、2日目は別記事でお届けします。