SDGsを実行に移すキーワード「バックキャスティング」とは?

2017年11月に経団連が企業行動憲章を改訂したことや、内閣府がSDGs未来都市の公募を開始したことなどをうけて、SDGsに関する興味関心は高まる一方です。私たちイマココラボにもびっくりするほどたくさんの問い合わせをいただき、多くの企業や自治体などでSDGsに関するワークショップを実施しています。

多くの場合、SDGsについての基礎的な理解をすることが(ひとまずの)ゴールになるケースがほとんどなのですが、おかげさまでそのゴールについては達成できたと好意的な評価をいただいています。

すると当然のことですが次の関心は「具体的にどうやってSDGsを自分たちの活動に取り込んでいくか」に移っていきます。

ここでよく聞くキーワードが「とはいえ」です。

SDGsが大事なのはわかった、の後に

「とはいえ実際に達成するのは難しいですよね」
「とはいえ1人(1部門、1社)ができることなんて限られてますよね」
「とはいえ現場は四半期目標もあるし、新しいことをするゆとりなんてありません」

などなどあげればきりがないのですが、多くの組織でこういった声が出てきます。

そのひとつひとつの声がでる背景も理解できますし、合理性もあると思います。

ただSDGsを具現化していこうとしたときに、まったく違ったアプローチが必要になります。このことを論理的に整理するだけでも、組織内の無用な軋轢をなくし、効果的な動きを生み出していくことができるので、今日はそれを紹介したいと思います。

 

「フォアキャスティング」と「バックキャスティング」

変化を生み出していこうとするとき、現状からどんな改善ができるかを考えて、改善策をつみあげていくような考え方をフォアキャスティング(forecasting)といいます。それに対して未来の姿から逆算して現在の施策を考える発想をバックキャスティング(backcasting)といいます。

例えば、現在もっているリソースから考えて適度なチャレンジを設定するのはフォアキャスティング。どうしても必要な目標を設定し(多くは到底達成不可能と思えるレベル)、やり方を後からなんとかして考える、というのがバックキャスティングにあたります。

具体的な例でいうと、顧客データの処理件数を毎期5%向上させようと計画したとします。当該部門はこの数字をさまざまな「改善」で達成しようとします。つまり現実の延長線上に、現実的な策を講じていくことになるわけです。

それに対して1年後に処理件数を50倍に増やす、という設定をしたらどうなるでしょう?もはや現在のやり方の改善では到底達成は無理というようなレベルです。こういうレベルの目標を設定したとき、人は従来の改善というオプションを捨てて、根本的に異なる発想をするものです。例えば関わる人員を削減してAIの活用を考えるかもしれませんし、そもそもの処理フロー自体をドラスティックに変えることに着手するかもしれません。

別の言葉で言えば、フォアキャスティングは現状を考えた改善的なアプローチ、バックキャスティングは創造的破壊を生みだすアプローチとも言えます。

この2つの考え方は、どちらが優れているという性質のものではなく、本来はケースバイケース、相互補完的なものです。ただ、この2つの概念を念頭に置いて、先ほどの「とはいえ・・・」という言葉を見ていただくと、これらの言葉の裏にある発想が基本的にはフォアキャスティング一辺倒なのがおわかりいただけるでしょう。

実は、SDGs自体はバックキャスティングの発想で作られています。つまり「具体的なやり方はわからないけど、とにかく私たちの世界は2030年にはこういう状態になっている必要があるのだ」と、相当にチャレンジングな目標として設定されているのです。

このことを理解すれば、通常の組織でSDGsを実行に移そうとしたときに、軋轢が生まれて実現可能性に疑問符がつくのが、よくわかると思います。

そんな構造的な背景も踏まえると、組織内でSDGs的な施策を形にしていこうと思うならば、組織内での平均的理解度の向上だけでは不十分です。

もちろんそれは施策としては必要ですが、同時に創造的破壊を起こすような、リーダーシップやイノベーションといった動きを加速させる仕組みも必要なのです。

もし平均的な理解度をあげてもいまいち変化が生まれる気がしない、と感じているのであれば、ぜひ後者の取り組みをデザインしてみてください。

 

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