【SDGs研修×アイディアコンテスト】中外製薬 熱意がつくるボトムアップのデザイン
中外製薬株式会社とイマココラボは2年間にわたり、SDGsの本質的理解をベースとしたアイデア創発に一緒に取り組んできました。中外製薬の取り組みの特徴は「中外SDGsコンテスト」という社員から生まれたアイデアを集約し実現していく出口があるという点です。
この全社での取り組みは実はひとりの社員の熱意を起点にスタートしました。その社員とは研究開発や製品のライフサイクルマネジメントを統轄する部門に所属する北川達也さん。SDGsの浸透を直接的にリードする部署にいない北川さんがどのようにこの取り組みの実現にこぎつけたのか。社員の熱意と会社の経営方針が重なり相乗効果で実現した全社での取り組みについて、北川さんを含む事務局の4名に今後の展望も含めて語っていただきました。
実施概要
インタビュー
お話を伺った方
北川 達也さん(プライマリーライフサイクルマネジメント部Neuroscience領域戦略グループ)
河原 孝一さん(サステナビリティ推進部企業倫理推進グループ)
森 恵美子さん(サステナビリティ推進部企業倫理推進グループ)
古本 健太朗さん(経営企画部戦略企画グループ)
――理解を深めるワークショップとSDGsへの取り組みアイデアを募る「中外SDGsコンテスト」を、セットで実施したところが御社の特徴です。その発案者である北川さんは担当業務としては直接的にSDGsを推進する立場にいらっしゃらないですね。
発案に至った経緯を教えてください。
北川 きっかけは、2018年夏にイマココラボさんのカードゲーム体験会にプライベートで参加したことです。当時はSDGsについて何もわかっていない状態。他企業の方も参加する会だったので、情報交換やビジネスにつながるネットワークが広がるかもしれないという期待と、カードゲームが楽しそうだなというイメージだけで参加しました。
――実際にカードゲームを体験してみていかがでしたか?
北川 ゲームを通して自分自身の内面を知ることができ、これまでにない衝撃を受けました。それと同時に、SDGsへの取り組みを会社に導入することで、新しい、楽しそうなことができるかもしれない、ビジネスでのイノベーションにつながるかもしれない、そう直感したんです。――そして私自身もいろいろとアイデアが出てきたのですが、残念ながら、当時はそういったボトムアップのアイデアを具現化するための仕組みが社内にありませんでした。それなら、仕組みを作ってしまえばいいと考えたのが始まりです。
会社に提案するにあたっての最初のステップとして仲間を募ったところ、呼びかけに応じて若手社員を中心にさまざまな部署から集まってくれました。彼らと意見交換を重ね、直属の上司の承諾も得て、ようやく経営陣への提案に向けて経営企画部に相談に行ったのが2019年の年明けです。
――北川さんからSDGsの社内浸透の提案を聞いたとき、経営企画部の古本さんはどのような印象を受けましたか?
古本 「生きのいい社員が来たよ」という感じでしたね(笑)。SDGsの社内コンテストをやりたいという情熱がすごかった。その熱意に押されて(笑)もありますが、提案のタイミングがよかったことも実現の大きな要因だと考えています。
――具体的にはどのようなタイミングだったのでしょうか。
古本 当社は2019年1月に新しい経営方針として「当社と社会との共有価値創造」を打ち出しました。根幹の思想は創業時から変わりません。一人ひとりの患者さんを中心とする医療の仕組みそのものの進化に貢献し、社会課題解決と会社の発展とを実現していこうとするものです。これは「すべての人に健康と福祉を」を掲げたSDGsの目標3に直結するため、新しい経営方針とSDGsとの親和性が高かったというのがまず挙げられます。
もう一つは、当社はイノベーションを核としている会社ですので、イノベーションを起こし続けなければいけない。イノベーションを起こし続けるためには、トップ主導だけではなく、ボトムアップによるイノベーションも必要だという課題意識を経営側が持っていました。そんなときにちょうど、北川さんからの提案があった。「まさにこれだ!」と思い、「ぜひ、やりましょう」という流れになった次第です。
――無事に経営陣からの承諾も得られ、北川さんを筆頭に、経営企画部の古本さん、サステナビリティ推進部の河原さんと森さんの4名が事務局の中心メンバーとして動き始めました。
北川 私からすると、提案して実現が決まれば、あとは主管となる部署が運営するものだと思っていました。でもそんなとき、「思いを持っている人が最後までやったほうがいいよ」と古本さんが言ってくれたんです。「発案者が最後までかかわるほうが本当の意味でのボトムアップになる」と。この言葉は私にとって大きな契機となりました。幸い私の上司は理解があり、また業務としても比較的自由度が高いので、正式な業務として認めてもらえた。業務の一環として事務局にかかわれることを感謝しています。
――その後、イマココラボに問い合わせをいただいたのが同年3月。カードゲームでの体験や気づきを、いかにコンテストにつなげていくのかが課題でした。そのため事前に事務局の皆さまと打ち合わせを重ね、ワークショップの効果的な流れを一緒に考えさせていただきました。
森 おかげさまで初年度の2019年度は8月から11月にかけて全8回、合計で355名の社員がカードゲームのワークショップに参加。コンテストには国内外併せて241件ものアイデアが寄せられました。イマココラボさんのカードゲームは、さまざまな部署や立場の人がフラットに集まって一緒にできるのが特徴。社内には多くの研修がありますが、このようなスタイルはこれまでありませんでしたので、受講者の皆さんが生き生きとしていたのが印象に残っています。実際参加者からは好評で、当初は6回で終了予定だったものが、希望者が増えたことで2回追加開催して計8回の開催となりました。
河原 私は、コンテストの応募総数の多さにまず驚きました。社員からアイデアを募るという取り組み自体が初めてだったので、応募があまり来ないのでは、という懸念がありましたが、良い意味で裏切られました。ワークショップに参加しなくても応募は可能ですが、やはりカードゲームを体験してから応募した人はアイデアの質や内容の検討がものすごく深かった。カードゲームのワークショップをコンテストの応募につなげるというイマココラボさんのワークショップデザインが良かったと考えています。
――241件の中から最終選考を通過したアイデアをもとに、2020年9月に開催された東京ガールズコレクションにオンラインのバーチャル展示ブースを出展。乳がん疾患啓発活動を展開しました。
古本 発案者と関連部署がアイデアの具現化に向けて協働して検討を重ね、実現に至りました。発案者は医薬情報担当者(MR)。医療機関を訪問する中で得た気づきや経験をもとに、若い女性を対象とした乳がん疾患啓発活動を考え出したそうです。現場を知る社員からこのようなアイデアが上がってきたことに対して、経営陣からは純粋に「すごいね」という反応がありました。
――2期目となる2020年は、新型コロナウイルス感症染拡大防止の観点からカードゲームを用いた対面ワークショップはできませんでしたが、その代わりにオンラインで2日間の連続ワークショップを開催しました。オンラインでの開催はいかがでしたか?
森 2020年度のオンラインワークショップは10月~11月に全6回、合計155名が参加しました。昨年に引き続き参加した社員が3割近くいます。「会社として、自分として何ができるかというところを、もっともっと考えたい」といって参加する人も出てくるなど、1期目のワークショップ以上に受講者の皆さんの期待が高まっていました。
河原 対面でのカードゲームができなくなったのは大きなマイナスだと最初は思っていましたが、イマココラボさんから提案していただいた「興味のあるテーマに分かれてチームごとに対話を深める」という新たなスタイルで、内容の濃い研修を実施することができました。コンテストの応募の出だしが少し遅くて心配しましたが、結果としては2期目となる2020年度も200件ものアイデアが集まりホッとしています。特に、1期目以上にワークショップの受講生同士で組成されたチームからの応募が増えたことも特徴です。
――これまでを振り返っての感想や今後の展望を教えてください。
河原 最初の1年間が終わるまでは、正直に言ってどうなるのだろうという不安もあったのですが、「この事業所のSDGsは自分が引っ張っていく!」と言って頑張っている“SDGs特派員”のような社員も出てくるなど、SDGsの社内浸透が加速度的に進んでいると実感しているところです。
森 受講者アンケートの中で印象に残っているのが、ワークショップに参加した理由として「SDGsに対する会社の本気度を知りたかった」という意見があったことです。「会社が何をやるのか?」を、ワークショップやコンテストを通して社員が見ている。それはつまり、SDGsに対する意識の高まりを意味しているのだと思っています。今後は、これまでやってきたことにさらに工夫を加えながら、皆さんの期待に応えられるように形にしていきたいですね。
古本 まず大事なのは「やりっぱなしにしない」こと。要は、それがサステナビリティ(持続可能性)だと思うのです。例えば東京ガールズコレクションに出展した結果はどうだったのか? 世の中にどのような価値を提供できたのか? きちんと振り返ったうえで、もし期待していた成果が出なかったのであればやめる勇気も持って、その経験を学びとして次の一手を考える。トライ・アンド・エラーの精神でPDCAサイクルをきちんと回していくことが必要だと考えています。
北川 少なくとも当初予定した2021年までは、この活動を続けていきたいですね。ワークショップやコンテストに参加することで一人でも多くの社員がSDGsを自分事化し、SDGsを通して何ができるのかを思考するきっかけをつかんでほしい。そうすることで、製薬会社という当社の本業だけでなく、他の分野においても新しいイノベーションを生み出すことができるはずだと思うのです。
――カードゲームとオンライン、ワークショップの形は変わっても、参加された社員の皆さんの実直に成果を出そうと取り組む姿勢は共通していました。そこに、北川さんをはじめ、部門や役割を超えてこの取り組みをリードする事務局の皆さんの熱量が掛け合わさることで、組織の新たな創造性が引き出されているように思います。2021年はどんな共創のプロセスになっていくのか、私たちイマココラボとしても楽しみです。2年間にわたりご一緒させていただきありがとうございました。
■企業情報
会社名 | 事業内容 | 従業員数 | |
中外製薬株式会社 | 医薬品の研究、開発、製造、販売および輸出入 | 7,555人 (連結、2020年12月31日現在) |