【SDGs事例紹介】イケアのサステナビリティに対する本気度
イマココラボ村中(むら)です。
イケアの動きが本質的で素晴らしいので今日はイケアに関してまとめてみました。
本社をオランダとするイケアは、スウェーデン発祥で欧州・北米・アジア・オセアニアなど世界42カ国で事業を展開する世界最大の家具販売店で、従業員数は14万7000人にのぼるそうです。
日本では1974年に千葉県船橋市と兵庫県神戸市に出店したようですが、1986年に日本から撤退しています。その後、日本再進出を決定し、再進出1号店であるイケア船橋が2006年千葉県船橋市にあった屋内スキー場・ららぽーとスキードームの跡地の一部を利用してオープンしました。
1974年という昔に1度上陸して2006年に再上陸していたのですね。
CSO(Chief Sustainability Officer:最高サステナビリティ責任者)の招聘
イケアが戦略的にSDGsを推進していることは次のことからわかります。
2011年1月、気候変動対策に関する国際NGOクライメイト・グループのCEOであり創始者であった、スティーブ・ハワード氏をCSO(Chief Sustainability Officer:最高サステナビリティ責任者)として招聘しました。ちなみに、国際NGOクライメイト・グループは、RE100(Renewable Energy 100)という事業の運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟するイニシアティブを立ち上げた団体でもあります。
日本ではまだそれほどなじみがないかもしれませんが、世界ではサステナビリティを専門にするCSOはかなり一般的で、ナイキをはじめ沢山の会社がその役職を持っています。ティファニーもその1つです。日本でも日産を皮切りに、CSO職が徐々にですが出てきています。
CSOにもっと興味がある方は、Sustainable Japanのこのサイトが分かりやすくまとめてあるので見てみてください。
イケアでは外部の気候変動の国際的NPOから、それも創始者をCSOに招聘することでどのくらい本気かが伝わってきます。
そのスティーブ・ハワード氏が就任して2年後の2013年にTEDでスピーチしているものを見ましたが、2013年のタイミングでこの内容はかなり驚きでした。どんな感じで驚きなのかはこの後、ポイントを説明していきますが、全部をご覧になりたい方はこちらのTEDのサイトからご覧いただけます。(13分)
イケアのSDGsに関わる取り組み
TEDでスティーブ・ハワードCSOがお話ししている実際のイケアの取り組みに関わるものをまとめてみました。これは2013年時点のもので、4年後の現在の状況もサステナビリティーレポートから調べられるものを調べて記載してみました。
ハロゲンと電球型蛍光灯の販売取りやめへ
“今後2年間で段階的にハロゲンと電球型蛍光灯の販売を取りやめます。「全社挙げての全面展開」、これこそが企業のすべきことです。100%の取り組みです。”
<2017年4月時点調べ>
⇒2012年に白熱球、2014年に蛍光灯型省エネ電球、2015年にハロゲン電球を使った商品の販売を停止。2016年度中に店舗販売する照明器具を全てLEDにすることを実現
FSC認証を受けた素材の使用を2倍に
FSC認証とは、Forest Stewardship Council(森林管理協議会)の略で、森林の環境保全に配慮し、地域社会の利益や、経済的にも持続可能な形で生産された木材に与えられる認証です。
イケアは世界最大級の木材を商品として利用する企業で、そのイケアはFSC認証を受けた木材を利用することを推進しています。2013年にはスティーブ・ハワードCSOは以下の通り言っていました。
“取引先企業と協力して3500万ヘクタールの森林を認証することができました。 ほぼドイツの国土に匹敵する広さです。イケアでは向こう3年間にFSC認証を受けた素材の使用を 2倍にする計画です。”
<2017年4月時点調べ>
⇒木材の61%以上を持続可能な調達先から仕入れている、2020年には100%にする
2013年時点は20%程度であり、その後順調に伸ばしていて2020年には100%を目指して進めている模様です。
イケアが消費する電力を100%再生可能エネルギー
“100%再生可能エネルギーを目標にしました。2020年までには再生可能なエネルギーをイケアで消費する以上に作り出す予定です。イケアの店舗工場配送センターの屋上すべてに 30万枚のソーラーパネルを設置しました。6ヶ国に14の風力発電所を建設しました。”
<2017年4月時点調べ>
⇒71%までに向上させ2020年までに100%にする。ソーラーパネルは73万枚設置済み。
自ら風力発電所まで建設するなんて驚きですね。。ちなみに風力タービン(いわゆる大きな羽がついたタービン)は現在327基を世界中に設置しているそうです。
女性管理職比率を50%に
“ビジネスの管理職は男女半々になるべき時が来ているのでは?イケアでは 1万7千人の管理職のうち47%が女性です。まだ十分ではありません。男女差を縮め上級管理職にまで 行き渡らせる予定です。100年後まで待てませんのでイケアでは、今週女性社員のためのオープンネットワークを立ち上げ、なんとしてもこの改革を推進する予定です。”
<2017年4月時点調べ>
⇒48%
2013年時点ですでに47%であったので、ここからの進捗はさすがに厳しいのでしょうか。一方で48%であれば男女半々と言ってもいいような感じもしますね。
100%ベター・コットンへ
“「ベター・コットン・イニシアチブ」を組織し、農場に働きかけ灌漑用水を半減させ化学物質の使用を半減させる一方で、収穫高を増加させています。所得の低い農家では、経費の60パーセントが化学物質の輸入費ですので、収穫量は増え経費は半減します。農家は貧困から抜け出せるので喜んでいます。すでに数十万の農家に説明・指導を行なっています。イケアが調達する綿の60%の質が向上しています。これも全面的な取り組みです2015年にはすべての綿が ベター・コットンになります。”
<2017年4月時点調べ>
⇒2015年は94.5%達成、2016年に100%達成
コットンも達成ですね。
以上が2013年に語っていた主なものですが、目標設定が逃げ道なく明快ですね。
これらの数字は、過去4年の変化と共にすべて数値化され、レポートで公表されています。興味がある方は英語ですが、ぜひイケアのサステナビリティーレポート2016(英語)をのぞいてみてください。
企業がSDGsに取り組むステップでも書いていますが、目標は控えめなものより、大胆で意欲的なもののほうが業界に大きな影響を与えたり自社のコミットメントによる宣伝効果、さらにイノベーションやクリエイティビティを促進させる効果もあります。
イケアはすべてに対して、目標設定が大胆で意欲的で他社をけん引するものです。スティーブ・ハワードCSOは、この大胆な目標が企業においては特に重要だと言います。
「100%達成を目標に」することがビジネスパーソンには意味がある
“「100%達成を目標に」 などと言うと一般的に人はそのような目標は高すぎると思うでしょう。ビジネスの世界でも同様です。しかし、イケアでは100%は90%や50%よりも簡単だと考えます。90%を目標にすると企業はみんななんとか残りの10%に入ろうと知恵を絞ります。目標100%には曖昧さがありません。ビジネスパーソンは明快さを好みます。明快な目標が定まればそれに向かって進むだけですから。”
これは本当にその通りだと思います。
私は以前外資系企業に勤めていたのですが、2000年代初頭ペーパーレスという言葉が出始めたころ、社内でもペーパーレス化が推進されました。
そこで社長が取った方針は社員1000人あたりに対してプリンタ2台だけ、という荒業でした。
もちろん「そんなの無理だよ」とか「あり得ない」などという声は上がったのですが、結果としては2-3か月で社員全員がそれに慣れてしまったというものでした。
当時の社長もスティーブ・ハワードCSOと同じ話をしていました。「中途半端に残すと、PCと紙の両方使うことになる。100%ペーパーレスが明快で逃げ道がなくなる。それに向かって進むだけが分かりやすい」と。
実際に、中途半端な時はPCも使うが会議では資料を印刷する、つまり両方使うという状態でしたが、プリンタが物理的に相当遠くになり印刷するほうが面倒になったため、PC上の資料をプロジェクターで映すのみに変わりました。資料のフォーマットもWordやExcelからプロジェクターでも見やすいパワーポイントに変わっていきました。そして慣れてしまえば紙なしで全く問題なくやれる。さらに会社としても、プリンタや紙のコスト削減、紙を保存するスペースコストの削減など大幅なコスト削減の達成です。
もちろんペーパーレスへの移行に伴って、すべての会議室にはプロジェクターが常設され、IT環境が充実されるなどが同時に行われたのですが、それにしても見事な移行だったのを印象深く覚えています。
イケアのSDGsに対する取り組みを見ていると、「トップのコミットメント(強い意欲)」と「100%達成を目標に」が本当にカギだと改めて思います。
大切なものを計る(数値化する)
スティーブ・ハワードCSOはさらに言います。
“「計れるものは扱える」ということわざを知っていますね?皆さんも関心のあるものを計ってみるべきです。計ることをしなければ無知であることに気が付こうともしないでしょう”
SDGsの本質でもある話です。SDGsの「Gs」はGoals、つまり目標、数値目標の頭文字です。数値化することで扱えるものになる、ということです。
企業がSDGsに取り組むステップでも書いていますが、SDGsを推進するためは、最大の効果が期待できる領域を俯瞰的に把握するために、その領域で指標を選択しデータ収集を行うことが必要だと言っています。
「データがなければ扱えない」ということです。
前述の通り、イケアのサステナビリティーレポート2016(英語)は徹底した数値化と、それをオープンに見える化、公表しています。そうすることで社員自らの意識も変わっていくものだと思います。
また、“重要なのは関心あることを計り改革を推進し100年待たないことです。イケアでは持続可能性を 「できたらいいね」から「やるべし」にしました。やるしかないのです。”
「100%達成を目標に」と同じ感覚ですね。「トップのコミットメント(強い意欲)」と「100%達成を目標に」の結果として、SDGsに貢献する企業としてのブランド力も同時についてきて、結果として利益がさらに出る企業として持続可能になる、というサイクルが回っていくのだと思います。
気候変動対策のため3,700億円の投資計画および実績
イケアは2016年12月5日に気候変動対策のために合計30億ユーロ(約3,700億円)を投資計画及び実績を発表しました。
すでに実施済みのものとしては、2009年以来太陽光発電と風力発電プロジェクトに15億ユーロを投資してきており、自社運営の再生可能エネルギー発電所建設6億ユーロを投じています。同社は、現段階で71%まで向上させた事業運営エネルギーの再生可能エネルギーでの調達割合を2020年までに100%にすることを計画しています。(*3)
売り上げが342億ユーロ(約4.2兆円)、純利益は42億ユーロ(約5,200億円)であるため、なんと年間の純利益の70%相当の額を投資する、というものです。
これが本当のコミットメントですね。
イケアは現時点ですでに消費者から十分に受け入れられて利益も出ています。その上で消費者のサステナビリティに対する意識が高まれば高まるほどイケアの独走は差を広げるだろうということが、イケアのサステナビリティに対する取り組みから容易に推測できます。
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