【学校導入事例】2030SDGsで体験する15年後の世界/埼玉総合技術高等学校
埼玉県立総合技術高等学校総合ビジネス科の3年生を対象に、11月8日(火)、2030SDGsを使った授業を行いました。
「夏に2030SDGsに参加して、ぜひこれはうちの生徒にやってほしい、と思ったんです」と話すのは、教科担任の並木通男先生。
「2030年は高校生にとっては身近な未来。今の社会が抱えている課題をしっかり認識してもらいたいと考えました。」並木先生は、授業に2030SDGsを導入することにしたきっかけを、そう語ります。
ゲームの仕組みはシンプルです。教室全体がひとつの「世界」となり、その中で各プレイヤー(今回は3人1組のチーム)がカードによって示された「人生のゴール」の達成に向かって活動します。活動の中心となるのは「プロジェクト」。「時間」と「お金」を使い、経済、社会、環境に関連する様々な開発プロジェクトを実施していきます。開発プロジェクトが完了すると、プレイヤーはお金や時間ややりがいを獲得し、また、世界の状況にも変化が生じます。「世界の状況メーター」で示される世界全体の幸福と自分の人生の目標を、同時に、しかも、多様な目標をもつ者の集まる「世界」の中で追求していくところに、ゲームの面白さが生まれます。
SDGsの内容やゲームの進め方についてのガイダンスの後、ゲーム開始。教室がにぎやかな声に包まれます。
「プロジェクト達成しました!」と、即座にファシリテーターの前に行くチーム。
「ワクチン、だいじなプロジェクトだよー!誰かいらないー?」と、自分たちに必要なプロジェクトと交換しようとするチーム。
「何が欲しいの?時間?あるある、あげる!お金と交換してくれる?」と、リソース交換の交渉に入るチーム。しばらくはあちこちで交渉の輪が広がっていましたが、徐々にやりとりの声が減ってきました。
人生の目標を達成したらしく、落ち着いて座っているチームもありますが、手元のカードを眺めながら困った顔をしているチームもちらほら。
近くのチームに様子を聞いてみます。
「もう環境のメーターがゼロだから、プロジェクトができないんです」ホワイトボードに示されている「世界の状況メーター」を見てみると、「経済」は20以上のポイントがついていますが、「自然環境」「社会」はなんとゼロ。各プロジェクトを実行するには「自然環境が3ポイント以上」というように「世界の状況」に関する条件が含まれており、この状況では実行可能なプロジェクトがありません。
そうこうするうちに前半戦は終了。
「人生の目標を達成したチームは手を挙げてください」
8つのチームから手が挙がりました。
「じゃあ、世界の状況を発表するね。経済は…絶好調すぎるくらい(笑)!ただし、環境と社会は相当ひどいことになっています」
二酸化炭素の排出量が極限まで増え、地球温暖化が進行する世界。経済は絶好調なはずなのに、貧富の差が拡大し、多くの人が生きていくのに大変な思いをしている世界…そんな状況が、ファシリテーターから語られます。
自分の人生の目標は達成された。でも、世界は今、幸福か?生徒たちひとりひとりが、その問いに立った瞬間です。
後半戦が始まりました。目標をまだ達成していないチームはすぐに動き出します。一方、「もう絶対無理」と動けずにいるチームもあります。
『緑の意志』を増やしたいチーム。手持ちのカードがなく、他のチームと交換できるものがありません。
「…あ!」何かを思いついたらしい生徒が、近くのチームに声をかけます。
「ねえ、このプロジェクトやってくれないかな。それで、お金はとかはいらないから緑の意志ちょうだい!」
他のチームにプロジェクトをやってもらい、状況を動かす方法を考えつきました。
そうこうするうちに、「あのチームが『緑の意志』カードをほしがっている」というような情報が、
世界全体に共有され始めます。
「◯◯ちゃん!ここ、カード余ってるよ!」と声をかける生徒、
「1枚ならあげられるよー」と、カードをゆずりに行く生徒。
チームの垣根を越え、協力しあって全体の目標達成に向かう流れが生まれ始めました。
世界の状況メーターも徐々に回復していきます。
前半戦の終了時にゼロだった「自然環境」は7ポイント、「社会」は8ポイントに回復していました。
後半戦を終えて、ファシリテーターが、世界の状況を発表します。
「経済は依然として絶好調。ただ、ごく一部に、人生に希望をもてないほど貧しい人がいる状況です。環境は、だいぶ改善してはきているものの、前の世代が残した負の遺産については、まだまだクリアになっていない。」
ゲームを通してみんなが作った世界の姿が語られた後、ファシリテーターからひとつの投げかけがありました。
「では、みんなが本当につくっていきたいのってどんな世界ですか?無理していいこと書かなくていい、本当に思っていることを書いてみて」
ひとりひとりが、思い思いの言葉を、ポストイットに書いていきます。
最後、ファシリテーターから、今日の活動のまとめがありました。
「前半、経済はすごいけど環境や社会はゼロ…けっこう強烈な状況だった。でも、後半持ち直したよね。こういう風に、目標が見える化されることで、ひとりひとりの行動が変わるのです」
「みんなの生きる世界は、つながっています。インドネシアの森林伐採と、ぼくたちがコンビニでどのポテトチップスを買うか、という選択にはつながりがあるのです。みんなそれぞれの場所でできることがあるし、そこでしかできないことがある。今日のゲームで体験したのは、そんな社会の縮図です。」
生徒の様子からどのようなことが見えてきたか、授業後、並木先生に伺いました。
「かなり楽しんで集中している姿が見られました。普段の授業ではあまり意欲的でない子が、今日は一番積極的だったことも、驚きです。ゲームを進めていくうちに、全体を見なくては、という意識になっていくのを感じました。今日、17のゴールに触れた生徒たちが、予定調和に終わらずに自分たちなりに考え、行動していけるように、今後の授業でも扱っていきたい。」
今日参加してくれた39人の生徒たちが、2030年の世界に向かって行動していくために必要な次のステップが、見えてくる授業となりました。
文責:八田吏