環境省で2030SDGs ―カードゲームで学ぶ持続可能な社会づくりとSDGs


SDGsは環境行政にとっても非常に大きな意味があるものです。ある環境省職員は、ストックホルム宣言(1968年)以降の世界的な環境行政の動きに触れ、「SDGsでようやくここまで来たかという思い」と、SDGsに対する期待、心情を吐露しています。1月25日に環境省で開催された、カードゲーム『2030 SDGs』の体験会「体験!カードゲームで学ぶ持続可能な社会づくりとSDGs」は、このゲームを知った環境省職員が「これは環境省でこそやるべきだろう」と強く感じて弊社に打診があり、SDGsに対する環境省のみなさまの熱い思いを背景に、実現の運びとなりました。

この日は環境省内で開催され、同省地球環境局 国際連携課の杉本留三氏、辻景太郎氏、現在民間に出向中の福嶋慶三氏の呼びかけで、国会会期中にも関わらず、40名を超える職員のみなさまに、『2030 SDGs』を体験していただきました。また、環境省事務次官の小林正明氏にもご参加いただいたことは、同省のSDGsにかける期待を物語るばかりではなく、こうしたフラットな議論の場の重要性が増していることも感じさせました。

SDGsの世界観を


冒頭、いつものように稲村からSDGsについてご説明しましたが、いわばSDGsの“プロ”のような環境省のみなさまを前に、「あまりにも僭越すぎて変な気分」と緊張を隠せません。しかし、SDGsの17のゴール、169のターゲットが「開発途上国だけの問題ではなく先進国とも深く関わっている」こと、「1個1個のターゲットを個別にクリアするのではなく、地球全体を意識して、ワンパッケージで取り組まなければならない」ことなどのポイントを説明。とはいえ、「今日は、目標を細かく見るというよりも、SDGsの全体感、世界観を楽しく感じ取っていただければ」と呼びかけました。

続くゲームの説明では、使うカードの種類と機能、進め方等を解説しました。

  • 目標カード……各チーム1枚。この目標達成がゲームとしてのゴール。成否を競う。
  • お金……貨幣を表すカード。
  • タイムカード……2030年までに使える時間を表す。
  • プロジェクトカード……経済(青)、環境(緑)、社会(黄)の分野ごと、さまざまな事業を行う。プロジェクト実行には種々の条件がある。
  • 意思カード……経済、環境、社会ごとに設定される「やりがい」「実績」のようなもの。これらカードが規定枚数配布され、プレイヤーはプロジェクト実施などの活動を通して目標の達成を目指していきます。

そして、このカードとともに重要なのが「世界の状況メーター」です。経済、環境、社会の3軸で表現されており、プロジェクトを実施するたびに変化する世界の状況が示されます。また、このバロメーターは「お金」「時間」とともに、プロジェクト実施の条件になっていることもあります。

例えばプロジェクトカード「交通インフラの整備」の場合、実施には500Gのお金と3枚のタイムカードが必要で、世界の状況メーターで、経済(青)が3以上なければ成立しないことになっています。そしてプロジェクトを実施すると、見返りに1000Gと1枚のタイムカード、青のプロジェクトカード1枚、青の意志1枚がもらえ、世界の状況メーターに対し、経済がプラス1、環境にマイナス1が加えられることになっています。
このようにプレイヤーはプロジェクト実施を通して目標達成を目指しますが、ゲームでは「何をしても良い」ことにもなっています。「カードを売ったり買ったり、交換してもいい。分からなければ、現実世界を模してください」と稲村。基本的なルールを除けば、あとは「全部おまかせ」なのが『2030SDGs』の特徴なのです。

盛り上がるゲーム、加速する経済

この日は、前半10分、後半15分で進めることになりました。
前半開始とともに、ゲームマスターのもとへプロジェクト実施にプレイヤーが殺到、世界がどんどん変化していきます。開始3分で世界の状況メーターで、経済が10、環境が3、社会が1に。6分になるとさらに経済が加速し、経済17、環境3、社会0という状況。また、5分を過ぎたあたりから、会場で「緑のカードがほしい人!」のような呼びかけが起こり、各地でトレードや交渉の動きも始まります。非常に活発にゲームが進展し、あっという間に前半10分が経過しました。
前半終了時で、すでに目標を達成してしまったのは16チーム中7チーム。世界の状況メーターは、経済23、環境1、社会4でした。
世界の状況は、メーターの数値によってシナリオが設定されており、中間発表で解説されています。それによると、経済は「21世紀に入り不安材料があったものの、減衰するどころか絶好調すぎるほど絶好調」。環境は「CO2で言えばまだ排出量自体がどんどん増え続けている状況で危機的な状況」。社会状況は「富の総量は増え続けているが、格差が広がり、そこを起点にした社会不安は増加している。壊滅的状況ではないが抜本的改革が必要」となっていました。
後半開始前に、目標カードの示す言葉について会場から質問が上がったのは示唆的でした。「目標カードにある『豊かな社会』とは何か?」という質問。実は、目標カードは表現に工夫があり、自分自身の目標と、世界に対する目標の2つが織り込まれています。そこに気づくことで、後半の活動も変わっていくのかもしれません。

最後に環境が回復する

 

そして後半開始。後半は時間カード、お金カードが消費され、世界の状況メーターが偏っていることもあり、前半ほどプロジェクト実施が活発化しなかったようでした。その代わり、会場での交渉が活性化。単純に「社会貢献のためにお金をください!」という呼びかけもあれば売買もあり、さらには、実に複合的な取引も見られました。例えば、あるチームでは、プロジェクトカードとともに100ゴールドを提供。見返りに意思カードを1枚ゲットするとともに、プロジェクト実施後に発生する金額から200ゴールドを回収するという取引を成立させていました。投資の一種と言えるかもしれません。
世界の状況は大きく変わることなく、後半10分の段階で、経済22、環境2、社会10と、経済好調のムードが続き、社会状況がいくぶん改善しています。この環境が好転しない状況に業を煮やしたある参加者から「みんなで環境良くしないと」という悲痛な叫びが上がり、後半の後半になってようやく環境改善の動きも起こり始め、最後になってようやく環境ムードが加速。終了時には、経済22、環境8、社会11となったのでした。チームの目標を達成できたのは、16チーム中13チームという結果です。
終了後のシナリオ解説では、経済は依然として「絶好調」。環境は「危機的状況からは改善した。前半好き放題やった尻拭いをなんとかできた」という状況。社会は「意識が改善し、住みにくい世の中から、不平等や差別が緩和され、おしなべて希望の持てる社会になりつつある」と説明がありました。また、これはSDGsでいうと「169のターゲットの90%が達成されているという状況」だが、「環境分野で次世代に課題が残された」という状況でもありました。

ひとつに繋がった世界で

 

 

ゲーム終了後は、振り返りのワークショップを行います。「『2030SDGs』の楽しさは、半分がゲームにあり、半分はこの振り返りにあるという人もいる」(稲村)というくらい、この振り返りの作業は、ゲームに劣らず楽しく、意味のあるものです。
まず、隣合った人と2人で感想をシェア、その後、テーブルの席替えをして4人ずつとなってもらい、テーブル4人で感想をシェアしてもらいます。ただの感想シェアですが、ゲームへの理解が深まるとともに、世界のあり方への意識も変わります。
全体シェアとしていくつかのテーブルの代表者に発言してもらうと、「稼ぐのは簡単だったが、環境を守るのが難しい。環境を守りながら稼げるプロジェクトがあれば良いと思った」「最初に目標カードとプロジェクトカードを全チームで共有して、戦略的にゲームを進めればよかった」「全体を仕切るオーガナイザーがいれば良い」といったゲームに対する感想、意見が多く見られました。
また、「目標を達成すると、余裕ができて環境に目を向けられるようになった」「目標は達成できたが、お金も時間もすっからかんになってしまって、生き方として正しいのかどうかよく分からなくなった」という、気持ち、心の有り様についての感想が出されたことも印象的でした。


そして、稲村、村中からSDGsとゲーム全体の振り返りを解説しました。
それは、「今、世界で起きていることは、どうも全体として動いているらしい」ということ。「風が吹けば桶屋が儲かるのことわざのように、何かが起きれば連鎖が生まれ、思わぬところで思わぬ結果が起きている」と稲村。その連鎖の一例として「安いスナック菓子が温暖化を促進している」すなわち「安いお菓子を作るために極端に安いパーム油が歓迎され、そのために違法で環境負荷が極めて高い形で森林が開墾され、大規模農園化されており、それが温暖化が加速している」というつながりの可能性を示しました。
また、世界各地で起きているテロを「宗教の話」だと思っている方もいますが、実は「経済格差や不平等、教育など多岐にわたる要素が複合的に結び付いており、その結果としてテロがあるのであって、短絡的に宗教がテロの源泉になっているのではない」という見方をすることも可能です。
このように連鎖するすべてを捉えようとする思考法を「システム思考」と言います。稲村は、「システム思考のいいところは、個別の現象に囚われず、全体を見て効果的に働きかけるポイントを見出すことができること」と解説。例えば、テロの連鎖を断ち切るためには、教育やジェンダーが大きなレバレッジポイントになる可能性が指摘されています。
「翻ってSDGsを見直すとどうでしょうか」と稲村は会場に呼びかけ。「169のターゲットを個別に見て、“我が社はこれとこれをやろう”とか、“○番がうちの会社にぴったりですね!”と考える人もいます。それも大事だと思うのですがSDGsの根底には、同時にすべての問題を考えていくという発想があります」。

語り合い、共有し、未来へ。

 

 

弊社からの振り返りを受けて、会場では再びテーブルごとのワークショップを行いました。今度のテーマは「改めて気づいたことは何か」です。
10分ほどのグループワークを行い、再び全体シェア。シェアされた内容を聞くと、「プロジェクト実施にもっと意味づけをしてはどうか。共同実施での分配方法などがあってもいい」「金融機能を持つ何かを設定しておくと、全体最適が取りやすいのではないか」というゲームの手法についての意見もあれば、「目標カードでは、例えば○カードを○枚、と制限があるが、実際の人間の欲望には限りがない、現実はそんなにうまくいかない」「プロジェクト実施のツケを開発途上国に押し付けているような形になっているように感じてモヤモヤした」というような、ゲームの目標のあり方についての意見もありました。
そして最後のグループワーク。テーマは「今、あなたの前に空欄のプロジェクトカードが配られました。それを前に、どう思うかを話し合ってください」です。最後のシェアでは、代表して2チームからシェアしてもらいました。
1つ目のテーブルからは「プロジェクトを考えることは、自分たちの仕事そのものだろう」という気付きが。「ゴールは人それぞれだし、世界の状況によって、求めるべきゴールも刻一刻と変わる。その中で、我々は環境だけを考えるのではなく、ホールシステムで捉えて、他のみんなもハッピーになれるプロジェクトを、仕事の中で考えることができればいいなと思った」。
2つ目のテーブルからは「流動性を失うことへの恐怖についての話があった」とシェア。「自分の手持ちのカードが減ったり、状況が悪化することを恐れていると、自分も周りも目標を達成することができない。世界を変えていくためには、変化を恐れず、自分の中の流動性を高めることも重要なのでは」。
『2030SDGs』は、SDGsの世界観を理解するだけではなく、体験者の行動変容を促すものでもあります。稲村は最後の総括として、「SDGsは、今ある景色の積み重ねではなく、世界を変容させるもの。今までの常識で描かれた世界ではなく、まったく違った世界へ今ここから変えていくことが求められている」と述べています。そして、SDGsと一般的に呼ばれる合意の原題に「Transforming our world」という言葉が含まれていることに触れ、「今、ここから世界を変えていきましょう」と呼びかけて締めくくりました。

「SDGsは羅針盤」

最後に、小林次官からもご挨拶いただいています。小林次官は「どうも私の世代はゲームと聞くと勝たないと!という気持ちになってしまっていけない」と笑いを誘い、ゲームについては「17の目標、169のターゲットがうまく組み込まれ、バランスもよく取れており、本質を突いている。よくできたゲームだと感服した」と高く評価。そして、世界の状況メーターの3軸のうちひとつが「環境」そのものであることに触れ、「ここがミソで、環境省としても、しっかりとSDGsに取り組まなければならない」と改めてSDGsとの関係を強調。さらに「示唆に富んでいたな、と思う」と付け加えたのが「職員の思わぬ顔を見られたこと」。「環境省の職員といえば生真面目な人間ばかりかと思っていたが、交渉事が上手だったり、思わぬ商売っ気があったり、こんな一面があったのかと気付かされておもしろい。働き方改革を進めるうえでも参考になった」と話しています。
また、小林次官は終了後の取材に答えて、「SDGsはこれからの環境行政の羅針盤」であるとも話しています。「経済的合理性と環境課題を噛み合わせて、社会課題解決に貢献する方法を模索する20年だったが、SDGsはその指針になる。今後は環境と経済がwin-winで成長していくことに期待できるようになった。環境省こそ、先陣を切ってSDGsに取り組みたい」。また、環境基本法、環境基本計画の見直し時期に来ていることに触れ、ステークホルダーミーティングを始め、さまざまなプレイヤーとの議論をするにあたり、「SDGsは議論のためのフレームワークになる」との見解も示しました。

『2030SDGs』の手応え

今回は外務省の方にも特別にご参加いただきました。外務省国際協力局地球規模課題総括課 課長補佐の堀田真吾氏は、「ゲームとしては非常に難しかった。交渉も、リアルの現場よりも難しいくらい(笑)」との感想を述べました。一方で、「全体感を把握するのが難しいSDGsを、ゲームで体験することで学ぶところがとても大きいと感じた。省庁間連携でも活用できるが、まず外務省内でもSDGsの理解を深めるために活用してみたい」と、ゲームの活用について積極的な評価でした。

同じく課長補佐を務める山口忍氏も、「経済、環境、社会の軸のバランスがよく取れており、仕掛けも良い。実に秀逸なゲーム」と高く評価してくれています。「SDGsの“その先”をイメージする機会がない中で、今回、ゲームを体験することで、その先を考える良いきっかけとなった」とも話し、今後もぜひやってみたいとのことでした。

外務省のお二人が指摘しているように、省内間での理解を深める、または、省庁間連携のために、『2030SDGs』は活用の場がありそうです。また、小林次官が指摘しているように、ステークホルダーミーティング等外部との議論の場でも、活用されるかもしれません。我々も、今後も関係省庁のみなさまと連携した開催を通して、SDGs普及に協力していきたいと考えています。

 

環境省のみなさまと弊社メンバーで記念撮影。ありがとうございました!