私たちの世界はさまざまな要素が複雑につながり、絡み合い、影響し合っています。その世界にあっては、分かりやすい「答え」や「正解」などは存在しないものが多いのではないでしょうか。だからこそ、いま求められているのは「正解」ではなく「行動」だと私たちは考えています。

「正解」が見つからないから足を止めてしまうのではなく、「正解」や「答え」にすぐにたどり着けないという居心地の悪さの中でも、模索し、実践し、フィードバックを受け取り、また試す、を繰り返し続ける。その「行動(Doing)」こそが変化を生み出します。

では、その行動のやり方、Howを教えればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうです。でも私たちは、その人が、またはその組織がどのようにSDGsに取り組めばいいのかというやり方、Howに対する正解を持っていません。
と同時に、単純なHow、例えばガイドや指針のようにSDGsを活用する、SDGsがあるから何かをやらなきゃ、というあり方は本質を遠ざけてしまうと考えています。

SDGsはSustainable Development Goalsという名前そのものにゴールズ(Goals)とついてますが、誤解を恐れずに言えば、私たちはSDGsをゴールや正解だとは思っていないということです。

では、私たちが考えるSDGsの本質とは何か。
それは、SDGsを「問い」として受け止めるということです。

「私たちはどんな世界を創りたいのか」
「私たちは何のために存在するのか」

そういった、人としての、組織としての、その「あり方(Being)」への根源的な「問い」として受け止めること。

この正解のない「問い」に私たちひとりひとりが向き合い続ける、そのあり方こそがこのSDGsが必要な世界に生きる私たちには求められているのだと、考えています。

私を含む日本で生まれ育った人たちの多くには、「お茶碗を持って食事をする」ということは当たり前の常識、価値観としてあるのではないでしょうか。私たちは何の疑問も持たずにお茶碗を持ち上げて食事しています。あまりに当たり前すぎて、気にかけることすらありません。それこそ、空気が私たちのまわりにある、ということを意識せずに当たり前に呼吸するように……。
しかし世界的に見ると、食器を手に持って食事をする、というのはマナー違反、非常識ともいえる習慣だったりします。

つまり、日本という限られた範囲における常識になんの疑問も持たず囚われているともいえます。
お茶碗の話はあくまで一例で、私たちはそんなふうにたくさんの常識や当たり前を抱えているにも関わらず、それらはあまりに自分たちにとっては自然で当たり前すぎて、抱えていることに気づくことすら難しい。言い換えると、そのほとんどに対して無自覚なのです。

にもかかわらず、その無自覚な常識、当たり前は私たちの考えや行動の前提となり(お茶碗を当たり前に持ち上げていますよね?)、その行動の結果として形作られているものが私たちの社会、世界なのです。

 

家族、地域、学校、行政、企業、国。ビジネスや生活における慣習、貨幣経済や金融市場といったさまざまな仕組み、制度。そういった大小さまざまな社会システムが存在しています。
改めて立ち止まってその社会システムを眺めてみると、それらが私たちひとりひとりの常識や価値観に影響し、さらには維持・強化している側面があることに気がつきます。

一方で、私たちの常識や価値観から生み出された行動が、社会システムを構築、維持、強化、または変化させていることにも気づきます。例えば、数年前であれば官公庁や企業でネクタイをしないで仕事をするなんてことはあり得ませんでしたが、個人の意識が変わってきたことでクールビズという新たな慣習が生み出されていますよね。

そして、こんな質問を聞くとどう感じるでしょうか?

私たちがいままでの常識・前提や価値観を無自覚に抱えたまま、これまでの延長線上にはない世界へTransform(変革)する行動を生み出すことはできるでしょうか?

直観的にも難しい感じがしませんか?

つまり、世界を延長線上ではないものにTransformしていくためには、いままでの常識や価値観、前提から外れた「何か」が必要なのです。

それは例えば合理化、効率化を重視し、達成感もしくは焦燥感で駆動しているビジネスにおいて、これまではある意味置き去りにされてきたモノでもあるかもしれません。

その「何か」を見つけるためにまず必要なことは何か。

それは気づくことです。
今の社会システムの中にいる私たちひとりひとりが、どんな前提や当たり前、価値観を無自覚にもっているのか、そしてそれらによってどんな影響を受けているか、に気づくこと。
気づくことで、その前提や価値観を改めて眺めてみることが可能になります。

いままで無自覚だったことを眺めてみるとで、自分にとって大切なこと、実はあまり重要ではなかったこと、または望む変化に気づく、ということが起きてきます。
その気づきの深さが私たちのあり方(Being)を変えていきます。

そのBeingを起点として、これまでの前提や常識、価値観に囚われずに行動(Doing)していく。そのDoingが私たちのBeingのTransformを加速していきます。

2015年9月に国際連合(国連)で加盟国が採択したSDGsの正式文書のタイトルにある「Transforming our World(我々の世界を変革する)」は、ある日突然起こったり、カリスマのようなリーダーが起こすのではなく、私たちひとりひとりの、そのBeingとDoingの循環の先で、振り返ったときに結果として起きているものなのだと、私たちは考えています。

 

マスターファシリテーター
能戸 俊幸

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