海外産業人材育成協会[AOTS] ~全世界14か国21名、開発途上国の企業経営者・経営幹部による自分ゴト化~
どんな背景から、この研修・イベントを企画・実施しようと思ったのですか?
当財団(略称AOTS)は海外、特に開発途上国の産業人材育成を通じて相互の経済発展と友好関係の増進に貢献することを目的として、国内外において様々なテーマの研修や専門家派遣などを行っています。
AOTSホームページ:https://www.aots.jp/
今回その一環として、開発途上国の企業経営者・経営幹部を対象に「ビジネスイノベーションと組織開発研修コース」を大阪市のAOTS関西研修センターで2週間にわたり実施しました。このコースは途上国の社会的課題をビジネスによって解決していくことのできる経営人材の育成を目的として、新しい発想でビジネスイノベーションを起こしていくためのリーダーシップと組織変革力を向上させる研修プログラムとなっています。
コース実施においてはグローバルリーダー育成で活躍されている㈱グローバルダイナミクスの山中俊之様と大久保香織様に講師・ファシリテーターとして全面的にご協力いただきました。
SDGsについては研修コースを企画する際、最初からコースの趣旨と高い関連性をもっていると思っていましたが、SDGsの内容「そのもの」を学ぶことを目的とするのではなく、SDGs「によって」経営リーダーの意識・行動変容を促し、ビジネスイノベーションを創出する力に結びつけてもらうための「触媒」としての位置づけで取り込みたいと考えていました。
そこで出会ったのが2030SDGsカードゲームでした。私自身何度かゲームを体験して、「問題をシステムと捉え全体を俯瞰し、 自分もその問題に加担している(一 部を担っている)という所に立ち、 自分のあり方(Being)からその問題自体に変化を与える」というイマココラボさんの提唱するLEVEL3のリーダーシップ(自分事として主体的になるリーダーシップ)へとつながる素晴らしい学びの機会となることを確信し、今回の研修コースの中に取り入れることとしました。英語版もあり、英語で直接ファシリテーションしていただけるというのが決定打でした。
実際に研修・イベントを行ってみた率直な感想は?
今回、アルゼンチン、バングラデシュ、カンボジア、エジプト、インド、インドネシア、マケドニア、ミャンマー、ネパール、パキスタン、スリランカ、スーダン、タイ、ベトナム(アルファベット順)とまさに全世界から14か国、21名の参加がありました。共通言語は英語。教室の中に彼らがいるだけですでに現実の世界の縮図が立ち現れてきます。しかも彼らは各国のビジネスリーダーです。自己主張が激しく、プライドも高い。。最後はイマココラボさんのファシリテーションで落ち着くところに落ち着くだろうという確信はありましたが、始まる前はどんな修羅場になるんだろう、とドキドキでした。しかしゲームが始まってみると、みな和気あいあいと楽しく、チームメンバー同士、そしてチーム間で様々な対話を繰り広げながら真剣に取り組んでいました。傍目には日本人同士で体験するのとそれほど大きな違いがない風景がひろがっていたのです。
研修日程の後半(最終日の前日)にこのカードゲーム体験を入れたことで、それまでリーダーシップや組織開発についてともに学んだ仲間としてのラーニングコミュニティが形成され、お互いの関係性の質が非常に高まっている状態で当日を迎えていますので、当然といえば当然のことだったと思いますが、あらためて2030SDGsカードゲームが持っている対話や協働を促すパワーを感じました。
一方、日本人対象に実施する場合との違いは、SDGsで掲げられている目標の多くは彼らの国では日々自分の生活や仕事を行う上で直面しているまさに「目の前の現実的課題」であり、SDGsの目標達成がそのまま自分が属している社会の持続可能性につながっていることだと思います。その意味でもSDGsの一つ一つの目標やターゲットの中身を勉強するのではなく、SDGsの視点を触媒としていかに目の前にある現実的な課題を自分ゴト化するのか、自分もシステムの一部なんだという自覚をもって自己変革を起こしていくかというLEVEL3のリーダーシップ開発において、今回の参加者が体験することの意味は大きいと感じました。
研修・イベントで印象深かった出来事、シーンは何ですか?
前半のゲームが終わった時点での世界の状況は極端な経済開発に偏り、環境・社会は酷い状況でした。それまでワイワイ・ガヤガヤやっていた参加者がこの状況をあらためて確認し、ファシリテーターからのレビューを聞いているときは静まり返っていたことが印象的でした。これはヤバい、と。
後半では自分たちの使命の達成を目指しつつ、世界の状況に目を配って経済・環境・社会のバランスをとっていこうとする動きがあちこちで見られるようになりました。ただ一方でさすがに厳しいビジネスの世界に生きる人たち。自分の使命を果たしたからといって手元の余剰資金や時間、意思ポイントを他のチームにどんどん無償で提供、というようなことはそれほど発生していなかったようです。ビジネスパーソンとしては、健全な商取引を通じてのみ世界は持続可能な発展が果たされるという信念があるということでしょうか・・。
参加者の方のコメント、アンケートで印象深いものは何ですか?
ゲーム終了後の振り返りの際に自分の国が抱えている社会的課題と自社の取り組みについて語りだす人が複数出てくるなど、2030SDGsゲームによって様々な想いが喚起されたようです。
また、以下のアンケートコメントにあるように、非常に刺激的だったようで、大変好評でした。
・とてもすばらしい経験だった。ゲームで学ぶやりかたは効果的だ。
・最初は何をすればよいのか分からず少し混乱したが、終了時までには様々なアイデアが浮かんできた。とてもクリエイティブなワークショップだった。
・世界を良くしていくためにどうすればよいか、という気づきを得た。とても実践的ですばらしいワークショップだった。
御社にとっても持続可能とは何ですか?
我々AOTSの英文正式名称は”The Association for Overseas Technical Cooperation and Sustainable Partnership” であり、海外との持続可能なパートナーシップ=イコールパートナーシップということをずっとモットーにしてきました。1959年の設立以来、AOTS研修に参加して日本で学んだ元研修生が19万人を超えています。そしてそういった人たちの一部は自分の国に帰ってからも日本での経験やつながりを自国に広め、次世代へつないでいくために同窓会組織を結成して活発に活動しています。いまでは世界43か国、71同窓会が登録されています。AOTSがこれまで半世紀以上にわたって綿々と培ってきたこうした人的ネットワークを大切にしつつ、先進国から途上国への技術移転というモデルを超えた新しい時代の新しい共創のパートナーシップを模索していくことが、我々にとっての持続可能性ということかと思います。
この記事を読んでいる読者の方にコメントをいただけますか?
ここまで読んでいただけたということは、海外の人たちとのつながりやパートナーシップに関心の高い方だと思います。ようこそAOTSの世界へ(笑)。
SDGsをより深く理解し、自分と世界、日本と世界とのつながりを実感するためには世界の人々、とくに開発途上国の人たちと交流し、対話を深めていくことが重要だと思います。そのためのきっかけとして2030SDGsはとてもよい機会となると思います。今回の研修は海外14か国の参加者のみでの実施となりましたが、今後はぜひ海外の方と日本人の方が一緒に参加できる学びの場をイマココラボさんや公認ファシリテーターの方々の協力を得ながら作っていきたいと思います。
共通言語は英語ですが…。勇気さえあれば何とかなる!(実際今回14か国の人たち全員がネイティブではありませんでした)。
最後にひとことお願いします!
AOTSの事業と直接関連のあるSDGsの目標は「8働きがいも経済成長も」、「9産業と技術革新の基盤をつくろう」ですが、我々が最も貢献できるのは「17 パートナーシップで目標を達成しよう」だと今回の研修を通じてあらためて認識しました。AOTSは今後も持続可能なパートナーシップを育むプラットホーム、「触媒」として皆さんと世界を結んでいきたいと思います。
竹内 祐輔さん