世界と自分のつながりを発見する〜ユネスコスクール横浜市立永田台小学校での実践〜

ユネスコスクールとして、ESD(持続可能な開発のための教育)に取り組む横浜市立永田台小学校。同校の5年生を対象に、カードゲーム「2030SDGs」を使った授業をさせていただきました。

 

「子どもたちは、4年生の時に自分の関心をもった環境問題について調べてきています。5年生になった今年は、そこからさらに、ひとつひとつの問題がつながっているのだということを知ってほしい、という思いがあります。2030SDGsで、17の目標間のつながりや、自分の行動が世界の状況に及ぼす影響を疑似体験してほしいと思っています」とお話しくださったのは、5年生担任の三上望先生。

壁には、環境イベントへの出展の様子、SDGsに関する授業の感想やアンケートの結果などが貼り出されており、事前学習を通じて、子ども達がSDGsへの関心を高めている様子が伺えます。

 

2030SDGsとは?
2030SDGsは、場全体がひとつの「世界」となり、その中で各プレイヤー(今回は2人1組のチーム)がカードによって示された「人生のゴール」の達成に向かって活動するゲームです。
活動は「プロジェクトカード」で示されます。プレイヤーは、開始時に配られた「タイムカード」「意志のカード」「お金」を元手に、様々な開発プロジェクトを実施していきます。プロジェクトカードは経済に関するもの(青)、環境に関するもの(緑)、社会に関するもの(黄)の3つに分類されており、例えば「原子力発電所の利用廃止」「環境保全ボランティアへの参加」「都市部への一極集中促進」といったものがあります。一見してポジティブな感じのものもあれば、判断に迷うようなものもあるのが特徴です。
プロジェクト実施には必要な「お金」や「時間」などの条件が設定されていますが、カードとは別に設定されている重要な条件に「経済」(青)、「環境」(緑)、「社会」(黄)の状況を示す「世界の状況メーター」があります。(メーターは、ホワイトボードにマグネットを貼って示しています)開発プロジェクトを実施すると、プレイヤーが新たにお金やタイムカードや意志のカードを獲得すると同時に、「経済は+1」「社会は−1」というように世界の状況メーターにも変化が生じる、というしかけになっています。
ゲームは前半戦、後半戦の2回に分けて行い、間に「世界の状況」についてファシリテーターからの共有があります。
「世界の状況メーター」で示される世界全体の幸福と自分の人生の目標を、同時に、しかも、多様な目標をもつプレイヤーの集まる「世界」の中で追求していくところに、面白さが生まれます。

ぼくたちが動くと世界が変わる
ゲームの開始とともに、教室がざわめきに包まれました。「早く早く!」とプロジェクト達成に向かうチーム、「お金が足りない…誰か〜!」と早くも他チームとの交渉をはかるチーム。子ども達の飲み込みの早さに驚かされます。

 

ところがしばらくすると、それまで活発だった動きが鈍くなり始めました。何人かの子ども達は、ホワイトボードにマグネットで示された「世界の状況メーター」とにらめっこしています。
「このプロジェクトをやりたいんだけど、環境のメーター(緑)がもうなくなってるからできないんです」。にらめっこしていた子の中の一人が、そう教えてくれました。各プロジェクトには、「環境のメーター(緑)が3以上」など、達成のために必要な世界の状況が決まっていて、それを満たしていないとプロジェクトを実施することができないのです。
「ねえあれ見て!大変なことになってる!!」
改めて「世界の状況メーター」を見てみると、経済のメーター(青)は大発展しているのに比べて、「環境」(緑)「社会」(黄)メーターは風前の灯です。手元のカードを見て、自分たちのゴールの達成を考えて動いているうちに、気がついたら世界の状況が大きく変化していた!そんな気づきが自然と生まれます。

「各チーム、今、何が足りなくて困っているか言ってみてください」
ファシリテーターから、全体の状況を見える化するための声かけがありました。
各チームが、自分たちが目指すゴールと、達成のために必要なお金や時間がどれくらいかを言っていきます。
この時点でゴールを達成しているのは10チーム中3チーム。後半戦、子ども達はどのように考え、動くのでしょうか。

このプロジェクトは社会のためになる?
後半戦が始まりました。先ほどとは明らかに動きが変わってきています。
「緑が増えるようなプロジェクトはない?」
「これやる?…あ、でも青がふえるけど黄色が減っちゃう」
そんな声が聞こえてきます。
すでに自分たちのゴールは達成しているチームも、他チームのところへ行き、
「何集めてるの?」
「このプロジェクトやるの?これ時間使い過ぎじゃない?」
などと、積極的に声をかけています。
自分たちのチームのゴールを達成することに集中していた前半から、全体の様子を見ながら「みんながうまくいく方法」を探ろうとする変化が見えてきました。

ひとりの男の子が、カードを前にして考え込んでいます。
「このプロジェクトをやればゴールに達するんだけど、この、〈都市部への一極集中促進〉ってどうなのかなあ。社会のためになるのかな…そのぶん、過疎になるでしょ?」更に聞くと、過疎の問題をテレビのニュースでみたことがある、とのこと。
日頃の学習や生活の中で見聞きした情報とリンクさせながら、そのプロジェクトそのものが社会にどういう影響を及ぼすのか考えているようです。彼はしばらく悩んでから、環境や社会への影響が少ないプロジェクトカードをもっているチームはないか、探しに出かけていきました。

もう一度やりたい!
あらたに3チームがゴールを達成し、環境(緑)、社会(黄)のメーターも少しずつ増えたところで後半戦が終了しました。ここからは振り返りの時間です。ひとりひとりが気づいたことをふせんに書いていきます。
「はじめ計画を立ててやったけど、時間のカードが足りなくてストップしてしまった。もっといい計画にしたかった」と自チームの行動について振り返る子もいれば、
「環境と社会のメーターがなかなか集まらなかった。今の社会もそうかもしれない」
「ゲームをやってみて、世界はつながっているんだと思いました」と、このゲームを社会の縮図として捉えている子もいます。

ポテトチップスが世界とつながる?
ここから更に、自分の行動と世界とのつながりについての学びを深めていきます。
「ポテトチップスの揚げ油、どんな風にして取ってるか知ってる?」ゲームの後、ファシリテーターからは、パーム油を取ることが違法な森林伐採や労働問題につながっている可能性について話がありました。ゲームを通じてバーチャルに世界と自分とのつながりを感じた後でもあり、話を聞く子ども達の目は真剣です。
「みんなが今日、『あ、今緑のメーターが少ないね』って気づきながらやっていたように、世界の状況が見えるようにするために目標を設定している、それがSDGsです。そして、その世界の状況とみんなの行動はつながっている、そのことを、今日はゲームを通して気づいたんじゃないかと思います。」

終了後、参観くださった先生方からご感想を伺いました。
「子ども達が、「このプロジェクトを達成したいからこのカードがほしい」と、理由も明らかにしながら説得していた声がきこえた。」
「教室のいろいろなところで他のチームと交渉する姿がみられた。これは、SDGsの中のパートナーシップにもつながる部分。いろいろなところにつなげられる可能性を感じた」
「交渉役、計算役と、自分の持ち味を生かしていきいきと活動していた様子が見られた。置いていかれている感じの子もおらず、みんなが楽しんで取り組んでいた」
「ポテトチップスと自然破壊の話を聞いていたときの子ども達の目が真剣だった。ゲームの体験が、具体的な例と結びついて学びが深まっていることを感じた。」

これまで個別の社会問題について学んできた子ども達が、ゲームを通じて「世界と自分とのつながり」を擬似的に体感し、社会問題に対する自分の行動を考えるきっかけになる…様々な学びがつながり、深まっていくのを感じられる授業となりました。

文責:八田吏