ユニリーバ・ジャパン 再生プラスチック採用のプロセスでの意識啓発~前編 サスティナブルの取り組みとは~

2017年2月に2030SDGsの公認ファシリテーターになり、自社内で2030SDGsのワークショップを開催されているユニリーバ・ジャパン・サービス社の設楽美和子さんにお話をうかがいました。

多くの企業で、経営企画や人事・CSRといった管理部門が中心となってSDGsへの取り組みを始めているというお話を聞くことが多い中、設楽さんは商品開発担当者の立場からSDGsやサステナビリティについて社内に働きかけています。
2019年秋冬、ユニリーバ・ジャパンの主力ブランドである「ラックス」「ダヴ」「クリア」から、再生プラスチックを最大で95%パッケージに採用した商品が発売されました。

この商品の開発から発売までには、設楽さんを中心とするサステナビリティに思いのある社内メンバーの働きかけや、カードゲーム2030SDGsの活用を通じた社内啓発があった、と聞いています。どのような思いや動きがあって、その開発につながっていったのか?
設楽さんへのインタビューを、全3回の記事でお届けします。

話し手:設楽美和子さん
聴き手:イマココラボ桝田

いまココ▶前編:ユニリーバ・ジャパンのサスティナブルの取り組みとは

中編:突然のサステナブル宣言~私たちにできることって?の当惑

後編:社内で人を巻き込んで動いていく時に、大事だと考えていること

商品の詳細、開発背景とプロセス

―本日はお時間をいただき、ありがとうございます。 2017年当時から「商品開発担当者」という立場でファシリテーターになられる方はあまりいらっしゃらず、私たちイマココラボにとっても設楽さんは気になる存在でした。お話をうかがえること、とても楽しみです。

ありがとうございます、よろしくお願いします。

 

―さっそくお話をお聞かせください。 再生プラスチックを最大で95%パッケージに採用した商品が発売されたとうかがったのですが、どのような商品なのか教えていただけますか?

はい。ユニリーバ・ジャパンでは、2019年秋冬から「ラックス」、「ダヴ」、「クリア」などのパッケージに再生プラスチックを採用しました。 その背景として、プラスチックごみの問題が世界中で関心を集める中、プラスチックを使い捨てにせず、資源として再利用していくことが求められている、ということがあります。
具体的には「hair supplement by LUX(ラックス ヘアサプリ)」のボトル本体には、ペットボトルからつくられた再生プラスチックを約90~95%使用しています。 2020年末までにPET素材のボトルを100%再生プラスチックに切り替えることを目指して切り替えを進めており、このことにより、年間5,200万本分のペットボトルがごみにならず、「ラックス」などのボトルに生まれ変わります。

―プラスチックごみは今、世界的に大きな問題になっていますよね。
日本だけでも年間900トンと大量に廃棄されるプラスチックをどのように処分するか? という問題に対して、ユニリーバ社では新しいプラスチックをなるべく使用しない、PETボトルをリサイクルして再度商品にするというアプローチをとられているということですね。それも、主力の商品で。

はい。商品の原材料として使う農産物も環境や人に配慮して育てられたものを選んで使っています。
たとえば、日用品・食品の原料として広く使われているパーム油は、アブラヤシの実や種から採れる良質な油ですが、農地を広げるために熱帯雨林が伐採され、気候変動を加速させていることが問題になっています。

ユニリーバは、1990年代半ばから持続可能なパーム油の調達に取り組んできました。2004年にはWWFとともに「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)を設立。2019年末までに100%持続可能な調達に切り替えました。日本でも、シャンプー・コンディショナー・ボディウォッシュなどに、RSPOによる認証を受けたパーム油由来原料を使っています。
また、ユニリーバ・ジャパンの本社や自社工場・協力工場・倉庫でもRSPO SCC認証を取得しました。
こうした取り組みは、陸の豊かさを守り気候変動を食い止める上で大きな意味があります。

 

―ボトルや商品の環境への負荷を減らすための取り組みの一環として、原材料を見直し作られた商品なのですね。
これまでとは異なる形での原材料の調達なども必要だったのではないかと思うのですが、どのようにつくられたのでしょうか?

ユニリーバでは、2010年、成長とサステナビリティを両立するビジネスプランとして「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入したんです。その一環として、10年にわたって、商品ライフサイクル全体からのCO2排出量の削減、水使用量の削減、廃棄物の削減、持続可能な原料の調達に取り組んできました。

「ラックス」、「ダヴ」、「クリア」などのパッケージに再生プラスチックを採用した、というのもその活動の一環です。
開発にあたっては、二つのことを意識しました。

一つ目は、現時点で技術的に可能であり、強度の問題などが生じないレベルで、最大限の量を再生プラスチックに切り替えるということです。これによって、原料調達のコストは上がりますが、自然環境や資源を守り、長期にわたってビジネスを続けるために必要な投資だと考えています。

二つ目は、再生プラスチックを使用しても、従来と同じ品質や使いやすさ、デザインの美しさを保つということです。パッケージの原料には、消費者の皆さまに安心してお使いいただけるよう、FDA(米国食品医薬品局)やEFSA(欧州食品安全機関)といった国際的にも信頼性の高い専門機関の認証を得ている樹脂メーカーから調達した、食品や飲料パッケージにも使える品質の再生プラスチックのみを使用しています。
さらに、パッケージデザインや製造のプロセスを一から見直し、樹脂メーカーやパッケージメーカーの皆さまと何度も協議を重ね、試作を繰り返して開発を進めました。そうしてできあがった試作品には、機能性や安全性をテストする商品試験を徹底的に実施しています。
また、長期保存試験により、過酷な条件で長期間にわたって保管しても機能や性状に問題がないことも確認しました。

 

―つまり、コストは上がっても、環境負荷を減らすために可能なことは行う。そして、安全性や使いやすさ、品質など、お客様に届ける価値はそのままに、ということですね

そのとおりです。どんなに環境に良い商品であっても、実際に手に取り、使ったときにご満足いただけなければ選ばれません。
消費者の皆さまに選ばれてこそ、環境も守り続けられるという思いから、品質や使いやすさ美しさはそのままに、よりサステナブルな商品を開発することを徹底しています。

―徹底して環境負荷を減らすことと品質の両立を全社で追求されているのですね。具体的には、どのような開発プロセスでつくられたのでしょうか。

ユニリーバ・ジャパンでは、商品開発にあたって、マーケティング部門が考えたコンセプトを、R&D(商品開発)部門が実際の商品に落とし込みます。その際に社内議論を重ねながら、サステナビリティのどの活動を採用していくのかを選定していきました。
そして、サプライチェーン部門が、多くのサプライヤー様から原材料やパッケージ資材を調達し、工場で商品を製造後、配送、それを営業部門が卸店様・小売店様とともに消費者の皆さまのお手元へとお届けしています。その一連の流れを、財務、人事などの管理部門が支えています。
これらのどのプロセスでもサステナビリティの視点を持つようにしています。
再生プラスチックの導入や、RSPO認証原料の採用などの活動は、短期的なプロジェクトではなく、開発とサプライチェーンの部署を中心に、日々活動しています。

 

―設楽さんはその中の商品開発部門で仕事をされているのですよね。コンセプトを実際の商品の形にして、販売できるものをつくりあげていく、大切な部門ですね。

開発だけが大切なのではなくて、この流れは「バリューチェーン」(直訳すると「価値の鎖」)と呼ばれますが、その名の通り社内・社外ともに多くの人々が鎖のようにつながりながら関わっています。どのプロセスが欠けても、消費者の皆さまへ商品をお届けすることができません。実際に「商品をつくっている」のは工場ですが、バリューチェーンに関わるすべての人が「商品をつくっている」ということができます。

今回の2019年のプロジェクトは、シンプルなプロジェクトではなく、いくつものプロジェクトが重なりあって構成されていたように思います。パッケージとサプライチェーンが中心となって動いていた再生プラスチック導入プロジェクトメンバー。ブランドのついた商品を完成させるプロジェクトメンバー。その中で、私個人としては管理職ということもあり実際のプロジェクトメンバーではありませんでしたが、様々な社内の活動を繋いで、サステナビリティという視点で社内で波のようなものを作りたいと思い、働きかけていました。

 

―社内をつなぐ、サステナビリティという視点で社内に波を作る。その設楽さんの思いについても、このあとぜひ詳しくお聞かせいただきたいと思っています。
その前に、ユニリーバ社が企業としてサステナビリティに取り組もう、という機運はいつから高まってきたのか、お聞かせいただけますか。 中編に続く