現在、多くの企業が抱えるジレンマは、SDGsを進めて持続可能な世界に向かう方針を掲げたけれど、目先の利益とコスト構造を優先する二つのビジョンにより、エネルギーが相殺されて思うように進まない構造が起きていることです。特に大きな企業ほど、この構造を抱えています。解消には特効薬があるわけではないですが、葛藤構造をひも解き、対処することは可能です。
SDGsに限らずビジョンを達成するには、そこに向けて「前進し続ける構造」が必要です。そのための鍵になるのが、各部署や階層で大事なことを判断する軸、つまり「自組織にとって最も大事なこと」を明確することです。そして、各部署・各階層の社員たちが同じ選択軸で意思決定を行っていく構造を整えることにあります。最も大事なことを明確にしていますか? そして、それを意思決定の構造に組み込めていますか?
社内の関心ある人をエバンジェリスト(推進役)として連携する
多くの経営者や人事担当者が「中心を担う人材が少ない」という課題を持たれています。企業がSDGs促進を従業員全員に一律に行うのは不可能なため、推進のキーマンを創る必要があります。このキーマンをいかに集めるか?
どんな会社にもSDGsの世界観、特に社会課題解決に関心や情熱がある方はいます。ただ残念ながら会社側は社員評価やスキルの情報は把握していますが、各自の関心を把握していないため、キーマンを特定できない。関心や情熱は物事を推進するエンジンです。そのためプロジェクトを手上げ制にすることは大切ですし、社内のSDGsの世界観に近い活動をしている人(≒浸透役として適任者)を繋げて育てることが大事になります。
SDGsの本質に「つながっている世界」がありますが、これは何も社会だけではありません。みなさんの社内でも同じです。
小さな変化の継続で生み出す「大きなチカラ」
SDGsといえば、高いゴールを設定する「バックキャスティング(Backcasting)」をイメージする方が多いかもしれません。複合的な課題を一つ高い視座・視点から構造的に変えるアプローチとして有効であり、大事なことですが、これだけを意識しても変革は進みません。
SDGsを推進するときはビジョンを設定したうえで、小さなことから日々変わり続ける構造(アクション)を創ることが大事です。例えば、1日1%の変化でも年間では365%の変化になります。部品を一点ずつ見直していって年間50点の部品を変えた結果、製品の生産量が向上したとしたら、そのインパクトはいかがでしょうか?
いまで積み上げてきた事は必要性があったと認め、少しずつ意識と選択を変えていくと、揺り戻しを最小限に抑えた変革ができます。この「小さな変化から着実に変える意識と構造」を社内にどう定着させていくか? それが鍵となるのです。
共感のチカラ・ストーリーのチカラ
SDGsに取り組む企業は急増しました。この取り組みで次に大事なのは「共感」が集まる流れをデザインすることです。人は本質的に社会に貢献したいと思っていますし、自分の組織もできれば社会に価値あることをしていてほしいと願っています。
社員が価値や存在意義を感じられる会社ほど、会社へのエンゲージメント(愛着心)も高まります。SDGsの取り組みを社員の方々に、どの程度伝えていますか? 結果だけでなく、途中のプロセスや葛藤している姿を見せていますか?
人は完成されたものや答えよりも、そこに至るプロセスやストーリーに感動、共感します。ニュースなどで不安要素が多い現代では、社員にとっての希望の光にもなります。社内向けに共感を呼ぶストーリーを意識的に伝える。これもまた大事なことです。
振り返るチカラは前進する礎になる
SDGsが前進する上で大事なのが「振り返るチカラ」です。現代は複合的で正解がなく、すごい勢いで変化しています。変革の進みが遅いと感じている方がいれば、それは現状を把握するための振り返りをされてないからかもしれません。
「振り返り」は、できなかったことへの反省とは異なり、創り出したい世界に向けてどの程度進み、現実の変化を捉え続け、高頻度での計画の修正を行っていくことです。特に最初はうまくいかないことも多いので、「兆し」を捉えるチカラが大事になります。そして、よくやってしまうパターンを見極め、一つ一つ制約(弱いところ)を解消していく試みです。この取り組みを意識的にも、仕組み的にも継続していくうちに、結果的に大きく変わってきたと実感を得ることができるようになっていきます。
ファシリテーター/営業
平手 喬久